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2016年06月18日

宙に浮く部Ⅱ  クレインガールの思慕

前書き

お先に失礼します、霊猫です、おこんにちはー

思ったより長くなってしまい、夜中の投稿です

すみません、次はもっと早く、頑張ります

ではでは、よろしくお願いしマッス!


               霊猫












3








 「『クレインガール』」

「何ですか」

「季子ちゃんのこと、『鶴の少女』」

目の前の先輩は、今日も懲りもなく部室にやってくる。

なぜここに来るのか。彼はただ面白いという理由だと話していたが、少年にとってそれはただの嘘だ。


新垣誓悟はなかなか人に無関心な人間である。笑顔でさも興味ある振りをして、一語一
句聞き逃さず話を聞いて、それでも興味がない。

そんな彼を、嫌だ嫌だと言いながら結局放って置いている少年も、大概無関心かもしれない。

「鶴を折ってお母さんにあげる。健気で優しい子って感じだな」

「・・・嫌みたっぷりですね」

「何で。俺は彼女を助けたいと思ってるし、現に助けてるし」

「先輩の場合、単なる気まぐれでしょ」

「人生は気まぐれだろ。何が悪いんだよ」

「・・・そういうとこ、直したほうがいいと思います」

少年は眼鏡越しに目を細める。実のところその目は見えない。


 母が病のために倒れ、それを必死に支える儚い「クレインガール」。

彼女を助けることはスケット部にとって本望なことだ。

しかし少年は季子より、目の前の、今にも世界を敵に回しそうな異端児を心配に思っていた。








***







 季子は正鞄も補助用に使っているバックパックも放りだして、大きな紙袋を抱えて教室を飛び出した。

紙袋はなかなかに膨れ上がり、中身が零れそうになっている。

袋の上を手で押さえながら、動いている足は止めずに廊下を駆ける。

たまたまとはいえ生徒指導の教師はおらず怒鳴り声は飛んで来なかった。


 紙袋は、この一週間(正確には4日間)スケット部で作った折り鶴で満たされていた。

色とりどり、形もまばらな千羽の鶴。

スケット部部長と誓悟が作った鶴は本当に綺麗で、最後まで不格好な季子のものが逆に目立った。

やはりそれを見ると恥ずかしい。

季子は半数の鶴を折ったが、それでも分かる下手さだった。

今はそれが一本の糸につながれ、その束は全部で5つ。ひと束200羽の鶴だ。


 完成形を二人に見せるため、部室棟の2階の端に向かう。

鉄の階段が音を鳴らした。


 ドアの前に立つと軽く深呼吸する。ここには何度も足を運んだが、入る時の緊張は直らなかった。

ノックしてドアを開ける。

「失礼しまーす・・・」

「ああお前か」

定位置のソファに部長は座り、いつものように本を読んでいた。

今日の本は文庫だった。カバーがついていて何の本かは分からない。

「あれ・・・?」

「チカならまだ来てないぞ」

「あ、そうなんですか」
季子が質問しなくても部長が答えを寄こしてくれるという流れは、今では驚かなくなった。
慣れというのは大きい。

「それで今日はどうしたんだ?」

「あ、えっと、千羽鶴ができたので見せに」

「そうか」

淡々として受け答えに不安になることも今はない。


 季子は紙袋から千羽鶴を取り出した。

「どうですか? 上手く繋げてますか?」

「ああ、大丈夫だ」

机に横にして乗せる。

束は長く、机からかなりはみ出ていた。

しかしそれがスケット部の、彼女のしたことの大きさだった。

「立派なもんだな」

「ですよね? 完成してよかったです」

「いやお前に言っているんだ」

「え?」

「よくここまでやったな。お疲れ様」

「え、あ、ありがとう、ございます・・・?」

いきなり褒められて、季子は何とも言えない返事を返してしまった。

スケット部部長は気にしていない様子だった。


 千羽鶴は誓悟が来るまで置いておくことにする。

待つ間、季子はスケット部について尋ねた。

「あの、スケット部って、いつからあるんですか?」

「正確には、一年前だ。チカが2年の頃だな」

誓悟が、のところに彼女は気付かない。冷静に聞けばおかしい言い回しだった。

「その頃は部室なんてなかったけどな」

「そうなんですか。あ、新垣先輩って不思議な人ですよね」

「俺よりもか?」

「部長は次元が違うっていうか・・・。新垣先輩はただのチャラい人じゃない感じで」

「チャラいはチャラい」

「まあ。そうですけど」

初対面の対応といい、校内で会ったときといい、誓悟は正直のところ軟派だった。

「チカは、ああ見えてテスト学年1位だ」

「えー!?」

人は見かけによらないとはこのことか。

あまりに意外な事実だった。

「俺が見たところ不得意なのが無いな。勉強も、運動も、料理も楽器も、とにかく苦手というのが無いらしい」

部長は更に続ける。

「教科書を一回読めば全部頭に入るし、料理も見ただけでどんなモノでも作れるし、音楽も聞いただけである程度演奏できるぞ、アイツは」

「うわあ・・・。天才って、ホントにいるんですね・・・」

「まあ、脳と体のシンクロ率が高いんだろう。頭の出来が違うのもあって、チカには嘘も通じないからな」

「へぇ・・・」

「俺よりよっぽど助っ人向きだ」

「でもチャラいので無理かもです」

「確かに」


「誰がチャラいって?」


いつの間にか誓悟が部室のドアを開けて立っていた。

口には笑顔があるが、目は笑っていない。部室内が一気に冷えた。

「お前のことだお前の」

「んだとコラ」

「チャラ男にチャラ男言って何が悪いんだ? このチャラ男」

「ふざけんな、このビン底、理論バカが」

「は? 誰が理論バカなんだ」

「お前だよお前」

火花の散る口論。

季子はやんわりと間に入る。

「まあまあ、落ち着いてください」

「・・・」

「・・・」

二人はとりあえず黙った。

季子は気を取り直して言う。

「千羽鶴が完成したので見せに来ました」

「あ、マジ?」

途端に誓悟はケロリとして、机の上の千羽鶴を見る。

「おーすげえ。季子ちゃんお疲れー」

「先輩のおかげです、ありがとうございました」

「いいよ、大体季子ちゃんが作ったんだし」

誓悟は喧嘩っ早いが落ち着くのも早い。先ほどの絶対零度は成りを潜め、爽やかな笑顔に戻っている。

しかし本当に堰が切れた時の誓悟を見たことがない季子には、そのように映っているだけかもしれない。


 季子は今日は早めに学校を出るために、早々に部室から帰った。

教室まで鞄を取りに行き、帰路に入る。

駅は学校から15分ほど。つい先月改修工事が終わり、駅もホームも綺麗になっている。


母がいる病院まで、電車に揺られること20分。電車の後は路面電車と徒歩で30分ほどだ。

大きな白塗りの病院。もう何度も来ている。

母が入院してあと一週間で1ヶ月になる。病院に勤務する看護師とは既に顔見知りだ。

受付の女性も名前を知っているほどの関係になりつつある。

受付を済ませ、母のいる病室へ向かう。今日は一人きりのエレベーターで上がった。


 母はベッドに座り、外を眺めていた。

何故かいつもより色が薄く、背景が透けているように感じた。

無性に泣きたくなった。

「お母さん」

グッと堪えて呼びかける。

「季子・・・」

「今日はどう?」

「昨日よりいいわ。昼は散歩に出たの」

「そっか、良かった」

荷物はベッドに横に置いて、しまってあった椅子に座る。


 余命半年と分かってから急に弱々しく見える母。

綺麗な黒髪も、白い肌も今では分からない。

「お母さん」

「何?」

「これ、」

千羽鶴を大きく広げる。

「作ったんだ」

「・・・私のために?」

「うん」

千羽鶴は部室にある時よりも鮮やかに、病室に浮かんでいた。

母の顔が驚きから嬉しさに変わる。

私の顔も自然とほころぶ。

「ありがとう」

母は笑いながら泣いていた。

「ありがとう」

母はもう一度言った。


 急に胸が痛くなって、私はトイレに行くと言って病室を出た。


母に喜んでもらいたくて作った千羽鶴。

部長と先輩が優しく手伝ってくれた千羽鶴。

私の、千羽鶴。


作っている間はあんなに、希望があったのに、今は千羽鶴が氷のように思える。

なんて冷たいのだろうか。


母に生きてほしい。元気になってほしい。

その一心で作った千羽鶴が、途端に悲しみの欠片となってしまって、見ることができなかった。

千羽鶴は希望などではなかった。

母の命の限りを私に分からせるための、通告だった。







***







 読書に勤しむ部長は、マスクも眼鏡もつけず部室でくつろいでいた。

彼は今こそ黒髪だが、本来は茶髪である。変装用のカツラで茶髪を隠し、たまたま見つけたビン底眼鏡を掛け、マスクで鼻から下を覆っているのだ。

今は昼休みで、生徒は来ない。鍵も閉めているし不在の文字を扉に貼っている。

好き好んで来る人間もいないだろうし、彼の唯一のフリータイム。

だったのだが、


「なあなあ、聞いた?」


ノックもせず入ってくるものだから部長は椅子から数センチ浮いた。

慌てて眼鏡とマスクを探す。

「おい、俺だよ」

「あ、何だチカさんか」

「何その反応、ムカつくんだけど」

容赦なく入って来たのは誓悟だった。

少し考えればここにノックなしで入ってくるのは彼くらいで、驚く必要もなかったのだ。


 誓悟は不機嫌な顔をしつつ、背もたれを前にしてパイプ椅子に跨った。腕を乗せて頬杖をつく。

「てか何で入って来れたんですか」

「え?」

「鍵閉まってたと思うんですけど」

「閉まってなかったぞ」

「え」

「不要人だなー、お前らしくねぇ」

ケケケと意地悪く笑う誓悟を睨む。

そんな部長の様子に更ににんまりした彼だったが、そうだったと思い出したように、

「季子ちゃん、昨日から学校来てないんだってよ」

「ああ、ですね」

「あ、お前教室一緒か」

「まあ」

興味あるのかないのか分かりにくい返事を返す。


 季子はちょうど、完成した鶴を見せてくれた次の日から学校を休んでいる。

理由とすれば、病院で何かあったのかもしれない。

鶴を部室で作っている間は、教室で折っていた頃より生き生きしていたように見える。
しかしそれが終わった今、彼女の心は果たしてどうだろうか。

「心配だよなー」

思ってもないような口調で誓悟が言う。

「完全にあの後何かあったんだろ」

「でしょうね」

「気になんねぇの?」

「・・・気にならない、って言ったら嘘になりますけど」

家庭事情を考えても、気にならないはずがない。しかも彼女はスケット部のクライエントなのだ。

季子は今まで欠席がなく遅刻もない、真面目で模範的な生徒だ。そんな彼女がいきなり2日間も休んだことは、部長にとって大きなニュースである。

「探求心が疼くだろ?」

「・・・そんな、探求心とか失礼でしょう。人の不幸に」

「じゃあ何だ、優しいお前は単なる同情心だって?」

「少なくとも、チカさんみたいな人ならざる思考ではないですね」

今回ばかりは誓悟の態度が目に余る。

いつもなら単なる一人の見解に過ぎないと流しているが、今の誓悟はまるで悪魔のように思えてならなかった。

「・・・へぇー」

彼が細めた目を向けてくる。

笑顔の中の無表情。その笑っていない目は、何故か悲しく震えているように見えた。

「じゃ、行くか」

「はい?」

「行くんだろ? 季子ちゃんとこ」

彼の無垢な問い。

部長の少年は一瞬目を閉じる。

「行きますよ。放課後」

「オッケー、じゃあ俺も行くから待っといて」

少年の返事を聞くや否や、誓悟は立ち上がってドアに向かっていく。

「先に行くなよ?」

「分かってる」

低い声と強い口調で言う。彼は今日一番の微笑みを残して、部室を出て行った。







 季子の家は烏集院高校から徒歩20分ほどの所にある、小さなマンションである。

住所は部長が把握済みのため、それ通りに探すだけだ。

2人は難なく辿り着く。

マンションの2階、階段から3つ目の部屋。そこの呼び鈴を鳴らした。

マンションはセキュリティがなかなか高く、部屋の中から尋ね人を確認できるようになっている。

『――――ッ』

インターホンから物音。季子はいるようだ。

『あ、』

「やあ」

彼女の声に誓悟が反応する。

「こんちは、季子ちゃん」

『ど、どうも・・・』

「学校休んでるって聞いたから、気になってさ」

『わざわざすみません・・・』

「いいよ、俺は付き添いで言い出したのコイツだし」

「おい」

ちゃっかり嘘を言う彼を睨み、部長も口を開く。

「急にすまない。チカがどうしてもと」

やんわり先程の言葉を否定しておくことは忘れない。

「大丈夫か?」

『はい、ちょっと熱があるだけだったので。あ、今開けますね』

彼女の言葉から数秒経って、ドアが開けられる。

そこには比較的顔色のいい季子が立っていた。

「体調悪いのに迷惑だったよな」

「そんな、気にしないでください」

どうぞ、と季子が先に部屋へ引っ込む。

「お邪魔しまーす」

断らずとも邪魔でしかない誓悟が後ろに続き、部長は最後に入る。

玄関は季子の革靴とスリッパ以外何もなく、母親の靴は靴棚の中のようだった。


 キッチンのテーブルに案内され、季子と向かい合う形で座る。

「お茶しかないですけど、」

「ああ、すまん。気を使わせた」

季子は足元もしっかりしているようで、ひとまず安心といったところか。

しかし表情は暗い。やはり何かあったらしかった。


 部長が何を言うべきか迷っていると、誓悟が口を開いた。

「それで、何かあったんだろ?」

「え、」

「今まで学校休んだことなかったらしいじゃん? 何かあったっつうの自然だと思うんだけど」

誓悟の遠慮のなさが今回は上手くはまりそうだ。

あくまで気になったから、心配だから尋ねたという顔で、彼は季子を見つめる。

「ただ体調が良くなくて、」

「じゃあその体調不良の理由は?」

「え、」

「病院で、何かあった?」

季子はとても分かりやすい。自分では気づいていないようだが、感情が表に出やすいようで顔がころころと変わる。

肩が一瞬ギクリとし、血の気が引く。

「季子ちゃん図星でしょ」

「・・・ッ」

「顔に出てる」

優しく指摘する先輩の目から隠れるように、彼女が横を向く。


 少年はその様子を見て、何かの尋問かと思った。誓悟も誓悟で好奇心を隠しきれていない。

「・・・チカ、落ち着け」

「落ち着いてるけど」

「どこがだ。心配するのはいいが、ペースを考えろ」

「へいへい」

部長の言葉を受け彼が黙り込む。

「悪いな、チカはお前が心配なだけだ」

「・・・分かってます」

「・・・正直言うと、俺も休んだ理由を知りたい」

「・・・・・・」

「無理にとは言わない。だが俺達が原因なんじゃないかと思っ、」

「違います!!」

急に大声を上げる季子。部長の言葉を遮るようにして、

「違うんです、そんなんじゃなくて、」

「・・・・・・」

「私のせいなんです、私の」

そう言ったきり、彼女は下を向いてしまった。


 重い沈黙が流れる。

「・・・季子ちゃん」

誓悟が呼びかけても答えない。

気が付けば、彼女は泣いていた。

嗚咽もなくただ涙だけが落ちていく。雫は床に跡を残す。

「・・・深谷」

部長が呼びかけた。

「お前が何で辛いのか、今の俺達には分からない。だが俺達は悪くないと言ってくれて、それはとても嬉しい」

「・・・・・・」

「お前が自分から話してくれたら、俺はいつでも聞く。不本意だがチカもな」

「不本意言うな。まあ、俺はスケ部じゃねぇけど、コイツとは長いし」

「そういうことだ」

無理に聞くこともできる。しかしそれは彼女にとって助けにならない。

スケット部として、依頼者を優先する義務がある。

理不尽なことになるのは困るが、それでも依頼者が上であることは変わらない。


 部長も誓悟も黙っていた。時間はそれほど長くなかったが、3人には長く感じた。

静かに座った季子も何も言わない。

2人も何も聞かない。

「・・・先輩と部長と作った千羽鶴を持って行って、」

か細い声が響く。

「完成したときは達成感でいっぱいで、これでお母さんも元気になるって。でも違ったんです」

「違うって?」

「・・・持って行ったら、確かに母は喜んでくれました。泣いて喜んで、くれました。でもその時、母が消えてしまうような気が、したんです」

「・・・うん」

「すごく辛くなって、私、気づいたんです。何しても、お母さんは、いなくなってしまうんだって・・・ッ」

季子の目が水で満たされる。必死に堪えようとして、決壊した。

もう涙は止まらない。

「自分の、していることは、意味がある、のかなって。そう思ったら、何もできない・・・!こんな自分が、嫌になって、お母さんを支えられないなんて、私は・・・!!」

顔を覆い、テーブルに伏せる。


 『思いつめるタイプだなー』

『健気で優しい子って感じ』

誓悟の言葉そのままの、目の前の少女。今の季子は自分の力のなさと現実の辛さの中で押し潰されている。

そんな彼女を見て、隣の悪魔のような友人は何を思っているのだろうか。

少年は今まで季子ほどの苦しい気持ちになったことがない。

両親も健在で、祖父母も元気だ。そんな彼が今の彼女を労わって良いものか、部長の少年は悩んでいた。

「・・・お前の母親は、お前のことが嫌いだと思うか?」

「え・・・?」

「俺は、母親の気持ちが分かる。確かに俺はお前の気持ちは少ししかわかってやれない。だが、千羽鶴をもらった母親の気持ちはすごく分かる」

部長は淡々と告げる。しかし訴えかけるように。

「お前から鶴をもらえて、嬉しかったと思うぞ。自分のために娘が頑張ってくれたっていうのは、俺だったら嬉しい、感謝しかない」

「お前娘いないけどな」

「・・・だが、同時に申し訳なく思うだろうな。無理をさせているんじゃないかとか、辛いだろうなとか思ってるはずだ」

「・・・全然、辛くないです」

「そう思うんなら、そんな顔するな」

「・・・ッ」

ハッとしたように季子が顔を上げる。眼鏡越しの強い目に射すくめられ、息を飲んだ。

「母親の為にも、笑顔でいろ。お前はいるだけで人を助けられる」

部長の言葉がこだまする。その言葉が何度も頭の中を駆け抜けた。

「本当に、そう、ですか・・・?」

「そうだよ」

答えたのは誓悟だった。

座る姿勢を直して、彼女を見つめる。

「・・・本当は言わないでおこうと思ったんだけど、俺父親いないんだよね」

「え、」

「俺がちっせぇ時事故で死んだんだ。雨の日で、スピード出してたトラックに轢かれた。即死だった。俺の、目の前で逝ったよ」

「そ、そんな、」

「学校から帰ってる途中の俺を見っけて、注意散漫だったんだろうな。まあ、俺のせいだって思ったよ。今も思ってる」

「それは、違いますよ、トラックの運転手が、」

「そうなんだけどさ。俺がそこにいなけりゃ、親父は轢かれなかったかもとか、思うわけよ」

誓悟の話し方は、まるで昔話をするように、おとぎ話のようにどこか浮ついていた。

「・・・でもさ、俺よりおふくろが大変だった。おふくろ俺を16で産んでるから精神的に幼いし、鬱なったりしたわけ。今は大丈夫だけど」

「・・・」

「俺父親似でさ、おふくろが言うには瓜二つらしいんだけど。で、俺のこと呼び間違えんの。『アツキ』って」

彼は笑う。嬉しそうに。

「・・・それが続いてふと思った、おふくろ助けてんのかなって。親父の振りしたら助けられるかなって。季子ちゃんも一緒だと思う」

「・・・」

「俺がいるからおふくろは笑ってる。季子ちゃんのお母さんもそうなんじゃねぇかな」

誓悟の言葉は季子だけでなく、少年の心も震わせた。

彼は今までこんな話をしてくれなかった。事実だけを少年に伝えていた。

今回は誓悟がいて正解だろう。

「・・・すみません先輩、こんな話をさせてしまって」

「いいよいいよ、季子ちゃんが分かってくれるなら」

「ありがとうございました」

「そう言ってくれて、俺も嬉しいわー」

「今回は、チカが役に立って良かった」

「おいテメェ」

2人のいつものノリに季子がクスリと笑う。調子が戻ってきたようだ。

その様子に2人も安堵し、思わず顔が綻ぶ。


 あまり長居しても迷惑だろうとすぐに退散することに決める。

「今日はありがとうございました」

「仕事だ」

「仕事の付き添いだから」

「はい、私頑張ります」

「ん」

「おー」

玄関まで来てくれた季子に何度か礼を言って、彼女の元を去った。

階段の前で女性とすれ違う。

「季子大丈夫かしら・・・」

ブツブツと呟きながら足早に歩いていく。

彼女は季子の部屋の前で止まった。

「深谷の叔母だな」

「マジか」

「彼女が心配だったらしいが、大丈夫だろ」

「俺の話、良かったろ?」

「まあまあな」

「・・・役に立って良かったわ」

急に誓悟がしおらしい声を出す。

「え、せんぱ、」

思わず素で聞き返した少年を遮るように、

「帰ろうぜ」

と彼は言っただけだった。







 次の日彼女は登校してきた。

晴れやかな顔で挨拶を交わす彼女。彼女は一番後ろの席で本を読む少年の元にやってきた。

「この間はありがとう」

彼女は言う。

「スケット部のこと。紹介してくれたでしょ」

「ああ・・・」

「ありがとう、とても助かった」

「うん」

そう告げて彼女は自分席に座る。

「『クレインガール』」

意地悪い先輩の言葉。

今はただ鶴を折るしかない少女ではない。

人を笑顔にすることのできる、強い少女だ。


 彼女の明るい笑顔を盗み見ながら、少年は小さく微笑んだ。


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